株式会社新庄砕石工業所・代表取締役 柿﨑 赳氏 ―「現場と地域を、もっと面白く。技術はオープンに、仲間とともに」

建設業界ではいま、人手不足や担い手の確保、技能承継、そして生産性向上といった課題が語られ続けています。その中で、山形県新庄市から全国でも先進的な取り組みを次々と打ち出しているのが、株式会社新庄砕石工業所です。

3Dプリンター施工、無人化・自動化施工、生成AIの全社活用――。中小の建設会社でありながら、大手ゼネコンと並んで「日本建設機械施工大賞」を受賞するなど、技術面での挑戦は枚挙にいとまがありません。

しかし、2026年に代表として就任した柿﨑 赳氏が一貫して語っていたのは、技術そのものの話ではありませんでした。「最も必要とされる建設会社になる」というビジョンの根っこにあるのは、“一緒に走る仲間を増やす”という、とても人間的な思いです。最先端の技術も、突き詰めれば「自分たちだけでは絶対にできなかった」と言い切る柿﨑氏。その言葉の真意を、じっくり伺いました。

目次

最も必要とされる建設会社に。――2026年、新体制のスタート

――本日はよろしくお願いいたします。まず、2026年に代表に就任されたとのことですが、いまの会社づくりで大事にされていることから教えてください。

柿﨑氏: よろしくお願いします。4月から私が代表になりました。実は、それまで会社には“組織”と呼べるものがほとんどなかったんです。おととし初めて営業部長を置いたくらいで、それ以前は先代と私のほぼ2人で、フラットにやっていました。

ただ、先代が抜けて、すべてを少人数で回すのはもう無理がある。それに、自分たちにできることはまだまだあると感じていました。だから代表になる前から組織づくりを始めて、営業部長、工務部長を迎え、子会社の社長もこちらから出して、ようやく体制が整ってきたところです。

――そのうえで掲げられたのが、ミッションとビジョンですね。

柿﨑氏: ビジョンは「最も必要とされる建設会社になる」。幹部たちと一緒に、自分たちの弱みも強みも全部出して、どんな会社・どんな社員になりたいかをみんなで考えました。地域にとっても、発注者やお客様にとっても、そして何より社員にとって、「新庄砕石が好きだ」「ここで働いてよかった」と思える会社になろう、と。そこを目指せば、結果として地域も良くなっていくはずなんです。

ミッションは「現場と地域をもっと面白く。」挑戦と成長から仕事の面白さを生み出して、未来を担っていく、という思いを込めています。

――行動指針(バリュー)も5つ定めていらっしゃいます。

柿﨑氏: 「笑顔」「言語化」「昨日より一歩前へ」「共育」「技術」の5つです。

まず「笑顔」。建設会社って、工程が忙しくなると忘れがちなんですよ。重機の中だと、なかなか笑顔も作りにくいですしね。次に「言語化」。「いい感じにやっといて」みたいな曖昧な指示が本当に多いので、ちゃんと言葉にしよう、伝わらなければ意味がない、と。

そして「昨日より一歩前へ」。挑戦を忘れないということです。「共育」は、“共に育つ”と書きます。ベテランは若手からAIやDXを学べるし、若手はベテランから知見や経験を学べる。お互いに敬意を持って、一緒に育っていこうという意味を込めました。最後に「技術」。我々は土木屋ですから、ここは絶対に外せません。

怒るのは“事”に対して――「笑顔」を掲げる組織のメンタル

――バリューの「笑顔」について伺います。人間ですから、教育の場面などで、どうしても笑えない瞬間もあると思うんです。社長ご自身や社員の方のメンタルは、どう保たれているのでしょうか。

柿﨑氏: 私自身、怒らないといけない場面はあります。ただ、笑顔で怒ることはもちろんないですが、あくまで“事(こと)”に対して怒っているのであって、人格を否定しているわけではない。だから、終わったらそこで終わり。引きずらない、という感じです。

――「笑顔は忘れがち」という言葉が、すごく実感のこもった言葉だと感じました。体力も頭も使う仕事で、余裕がなくなると難しくなりますよね。

柿﨑氏: 本当にそうなんです。だからこそ、意識して掲げる意味があると思っています。

直営施工とワンストップ、そして“リスキリングの場”としての教習センター

――事業の構成についても教えてください。

柿﨑氏: 事業ラインとしては、公共土木工事が約9割、社名のとおり砕石(骨材の生産販売)が1割ほどです。社員は単体で111名、グループ全体だと145名を超える規模になります。

特徴は、珍しく直営施工が多いこと。下請けに丸投げするということがほとんどありません。法面工事や鉄筋工事、地盤改良といった特殊なものは専門の業者さんにお願いしますが、それ以外は自分たちでやる。プラントでの製造事業もありますし、インフラ事業と合わせて幅広く手がけています。

――2024年には教習施設も開設されたそうですね。

柿﨑氏: 「石男くんトレーニングセンター」という、山形労働局の認可を受けたトレーニングセンターです。ここで技能講習や特別教育が受けられます。車両系、玉掛け、クレーン、フォークリフト……といった具合ですね。

これは地域にとって、建設業に転職した人のバックアップ、いわばリスキリングの場にもなります。実際、昨年は中途で25名ほど採用して、試用期間を経て20名ほど残ってくれた。そういう人たちに積極的に資格を取るよう促しています。現場は資格がないと何もできませんから。

うちの教習の一番の特徴は、現場監督や現場の職人が講師を務めること。他の講習センターだと、現場に出ていない人が教えることも多いんですが、うちは現場の知識をそのまま伝えられる。ここはかなり力を入れています。

労働局認可の施設『石男くんトレーニングセンター』。玉掛けや車両系建設機械などの資格を取得できる

残業は月1.2時間、お米は社員価格で――働く環境への投資

――働き方や福利厚生についても、かなり取り組んでいらっしゃると伺いました。

柿﨑氏: 全体最適として、働き方の改革はやはり必要です。完全週休二日制で、平均残業時間は2年連続で月1.2時間ほど。

――月、ですか。

柿﨑氏: そうです、月で(笑)。有給取得率もグループ全体で9割ほど。育児休暇も、この7月に現場の男性社員が2名取得します。去年も取りましたし、だいぶ定着してきました。

暮らしの面では、県外出身者も採用しているので、家賃補助や引っ越し費用の補助を出すこともあります。あとは大規模に農業もやっていまして、せっかくお米を作っているなら、ということで、市場のだいたい半額くらいですね――で社員に提供する取り組みを今年から始めました。

――資格取得や学びへの支援も手厚いそうですね。

柿﨑氏: 資格取得は会社が全額負担します。奨学金の返済支援もあって、短大・専門卒で50万円ほど、四年制大学だと100万円ほど。企業型の確定拠出年金(選択制DC)も、手数料は会社負担で導入しています。生成AIも、現場管理用に有料版を全員に配っています。

それから、ここから力を入れたいのが「心の相談窓口」です。実際にLINEで相談を受けて、配置転換につなげた例もあります。まだ十分には使ってもらえていないので、もっと気軽に頼ってもらえるようにしたいですね。

無人化・自動化施工――「危険なところに、人を入れない」

――技術面でも、全国に先駆けた取り組みをされています。まず無人化施工について教えてください。

柿﨑氏: これは「掴む・切る・掘る」を一台でこなす“一台三役”の機械を、無人で動かすというものです。バケットもカッターもついていて、これを無人でやるのは日本初でした。

狙いは安全です。災害復旧の現場では、土砂や流木が来る。そこに人が入るのは怖いじゃないですか。だったら無人で行く。最悪、機械が流されてもいい。流木を撤去して、土を掘る。それを一台で完結できるようにしました。

https://www.youtube.com/watch?v=eTKFXctRKW4

https://www.youtube.com/watch?v=RsPZv6GtpcE

※動画プレーヤーが再生されない場合は上記URLよりYoutubeへアクセスしてご覧ください

――遠隔操作なんですね。

柿﨑氏: 遠隔操作のものもありますし、汎用機にロボットを載せて無人化する仕組みもあります。無線で動かすので、どの機械にも載せれば対応できる。メーカーさんや日立さんと一緒に作りました。クローラーの自動施工は、プログラミングして自動で動きます。

――実際にやってみて、見えてきた課題もありますか。

柿﨑氏: ありますね。アームにロボットを付けると、地面が水平でなかったり振動があったりすると外れてしまう。熱にも弱くて、エアコンをつけないと熱暴走することもある。「自動」といっても、土が溜まると邪魔になって手動でプログラムし直すなど、まだ完全な自動ではないんです。だからこそ、ここを改善していきたいと、みんなで話しています。

もう一つ面白かったのが、有人と無人の能力差の検証です。AIメーカーさんと組んで、両者の動きをずっと計測して、どこがボトルネックかを調べました。すると、積み込みは有人が3倍速かった。人間はブレーキの感覚が分かるので上手に止まれて、スピードも出せる。無人だと距離感も難しく、止まるのに時間がかかる。人間の目や勘は、やっぱりすごいんです。そこをどこまで再現できるかで、効率が変わってきます。

――その成果が表彰にもつながったと。

柿﨑氏: 「日本建設機械施工大賞」の特別賞をいただきました。大賞部門で受賞できたのは、鹿島・大成・清水・竹中・大林、そして新庄砕石。中小企業では唯一でした。4人でやる作業を1人でできるようにして、生産性は1.36倍。何より危険区域に人を立ち入らせずに済むことが一番のポイントです。

大手の“閉じた自動化”ではなく、“開いた自動化”を

――今後の展望として、国のプロジェクトにも参加されているとか。

柿﨑氏: 内閣府の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」というプロジェクトに参加しています。あまり知られていませんが、14の分野で、日本の先進技術を各省庁連携で研究開発する取り組みです。私はそのインフラ・建設のチームに入っています。

いま、スーパーゼネコン各社もそれぞれ自動施工をやっています。でも、自社の技術は自社しか使わない。それだとスケールメリットも出ないし、競争も起きず、価格も下がらない。だったら、共通で使える“標準”を作ったほうがいい、という考え方です。

――スマホの充電端子のような話ですね。

柿﨑氏: まさにそうです。Type-Cに統一されたら便利でしょう。ライトニングと別々だと不便ですよね。あれと同じで、共通の制御信号を作って、みんなで使えるようにしようと。複数のクローラーが、互いに避けながら自動で動く。これは筑波大学の永谷先生が研究されています。

大手だけの“閉じた自動化”では、体制の中で完結して終わってしまう。それでは業界全体のためにならない。中小も含めてみんなが使える“開いた自動化”にしていきたい。相当難しい目標ではありますが、その方向で根回ししながら動いています。

AIは現場の相棒――施工計画書もアプリも、自分たちで

――生成AIの活用も全社で進めているそうですね。

柿﨑氏: 講演資料もAIで作りますし、アプリも自分たちで作っています。優秀な社員ならAIを使って自分で作れるな、と思って、有料版を配って実験しているんです。

これはまだ実証中ではありますが、施工計画書の生成AIを活用した運用を考えています。似たような工事のデータは今は電子化されているので、それを読み込ませて作らせることを試みています。他にも出張記録アプリや、給油アプリも作りました。給油アプリは、敷地の軽油スタンドの在庫が一定量を切ると、赤信号で通知が来る仕組みです。これまで手書きで管理していたものを、ぐっと楽にしました。

――社員の学びにも使われていると。

柿﨑氏: 若手が1級の施工管理技士を受けるとき、車で40分ほど通うので、その通勤中に音声で過去問が流れるアプリを作りました。通いながら学習できるんです。こんなふうに、AIや自動化でも前に進んでいく会社でありたいですね。

「それやって何になるの?」と言われ続けて

――昔ながらの職人気質の方も多い業界です。新しいことを始めるとき、社内の壁はありませんでしたか。

柿﨑氏: 今でこそ仲間が増えてきましたが、私は入社して17年目で、最初の10年、大卒採用を始めるまでは、まさに「早く行きたいから一人で」という状態でした。自分の工事で表彰をもらったり、論文で大臣賞をいただいたり。自分一人で成果を出すしかないと思っていたんです。

仲間づくりを本格的に始めたのは7年前。最初は周りのほとんどが理解してくれませんでした。社外の人には「すごいね」と言われても、社内では「何やってんの? それやって何になるの?」と。YouTubeもSNSも、ICTも、県内では初めてくらいに始めたので、なおさらです。

――それでも続けられた。

柿﨑氏: そう聞かれるということは、裏を返せば、うまくいったときのリターンが大きいということなんですよ。「これをやれば絶対こうなる」と分かりきっていることなら、わざわざやる必要がない。誰も気づいていないからこそ、チャンスなんです。

3Dプリンター施工もそうでした。取り組んでみた結果、本来80日かかる工程を40日に短縮できました。無人化施工のときも、最初は「マジか」という空気でしたが、結果として表彰にもつながった。やってみて初めて分かることが、たくさんあるんです。

――そうした挑戦も、社外とのつながりがあってこそ、とも伺いました。

柿﨑氏: SNSのおかげなんです。3Dプリンターも無人化施工も、きっかけはSNSでした。全国の、志を同じくする人たちとつながれた。トップを走る技術を持った方々が協力してくれて、我々はそれを最後に形にしているだけ。技術はみんなが持っているんです。自分たちだけでは、絶対にここまで来られませんでした。

80日の工程を40日に短縮した3Dプリンター施工

早く行くなら一人で、遠くへ行くならみんなで

――取り組みのすごさはもちろんですが、社長ご自身が一番伝えたいことは何でしょうか。

柿﨑氏: 大きな枠で言うと、「一緒に走る仲間を集めたい」ということに尽きます。自分の会社を良い会社だと思っているし、仲間が増えれば、それだけ地域に貢献できる。働いてくれる人にしっかり目線を当てているので、その人自身も幸せになれると思っているんです。

だから教育体制を整えて、多業種からも来てほしい。建設の勉強をしていない人でも全然いい。実際、うちの大卒は17〜18人いますが、土木出身は2人だけなんですよ。「土木をやった人しかできないでしょう」「建設系じゃないとダメでしょう」と皆さん思いがちですが、まったくそんなことはない。教育をしっかりやれば、ちゃんと活躍してくれます。今、社長室で積算をやっている社員も、まったく畑違いの学部出身です。

――入り口のハードルは、思っているより高くないと。

柿﨑氏: そうなんです。建設業は、会社次第でどんな人でもうまく育てて活躍できる場所です。給料も上がり、休みも増えた。それでもまだ人は足りていない。これから働く人にとっては、むしろ良い時代になると思います。

アフリカのことわざに「早く行くなら一人で、遠くへ行くならみんなで」という言葉があります。まさにそれを目指したい。ラーニングカンパニーのような形で、仲間を増やしていきたいんです。

採用で見ているのは、“素直さ”と“主体性”

――採用の際に重視されるポイントを教えてください。業務への適性か、人間性か、どちらを見ていらっしゃいますか。

柿﨑氏: 正直に言うと、選ぶ余裕がないというのが採用の難しさです。そのうえで言えば、学歴や資格は一切関係ありません。合同説明会などでも、私と採用担当、社長室長の3人で行って、「この人たちとなら、この会社でやっていけそうだ」とお互いに思えるかどうかを大事にしています。学生さん側も、私たちを見て「馬が合いそうだ」「成長させてくれそうだ」と感じたら、一度見学に来てもらう。

そのうえで、何を求めるか。やはり「素直であること」。そして我々のビジョンに共感してくれること。さらに、主体性を持って自分から取り組めること。この“素直さ”と“主体性”を、強く見ています。

まずは自分たちの現場で証明する

――最後に、これから見据えていることを教えてください。

柿﨑氏: まだまだ至らないところばかりです。どうやってスケールさせていくか。新しい挑戦をするときのマインドブロックや、ベテランの意識を、少しずつ変えていく必要もあります。社内では「経営戦略推進室」をMVV策定のメンバー中心に立ち上げて、月に一度、会社をどう変えていくかを話し合い、意思決定しています。

技術を、自分たちだけのものにするつもりはありません。
ただし、公共工事を“実証の場”として活用することは、決して簡単ではありません。安全性、発注者との調整、現場条件、予算、工程など、乗り越えるべき壁は多くあります。

また、大学や研究者とのプロジェクトも、先方がすべてを進めてくれるものではありません。
我々自身が主体的に動き、現場をつくり、関係者を巻き込み、実証できる環境を整えていく必要があります。

そのうえで、大学や研究者達の知見と、我々の現場力を掛け合わせる。
公共事業という責任あるフィールドの中で、実際に使える技術へと育てていく。
そして、その成果を我々だけで抱え込むのではなく、業界全体に開いていくことが、地域建設会社としての大きな役割だと考えています。

――本日はありがとうございました。

柿﨑氏: ありがとうございました!昨日よりも面白く!!

まとめ

今回の対談を通じて強く感じたのは、新庄砕石工業所の“最先端”は、決して技術の話だけではないということでした。

3Dプリンター、無人化・自動化施工、生成AIの全社活用――。一つひとつは目を見張る取り組みばかりです。けれども柿﨑氏は、その成果を「自分たちだけでは絶対にできなかった」と繰り返し語ります。SNSでつながった全国の仲間、大学や国のプロジェクト、そして社内で共に育つ社員。すべては「遠くへ行くなら、みんなで」という一つの哲学に貫かれていました。

働く環境に徹底的に投資し、学歴や資格より“素直さ”と“主体性”を見て、多業種からの仲間を受け入れる。技術を「開いて」業界全体の財産にしていこうとする。地方の建設会社の挑戦は、これからの建設業にとって、大きなヒントになるはずです。

企業情報

株式会社 新庄砕石工業所

代表取締役:柿﨑 赳

URL:https://www.shinjosaiseki.com/

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この記事を書いた人

建設業にまつわるニュース、建設業を支える人々を取り上げて情報発信しています

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