建設業界ではいま、人手不足や若手離れ、技能承継の難しさなど、さまざまな課題が語られています。
その中で、今回お話を伺った三栄工業株式会社の代表取締役・軽部 治氏が一貫して語っていたのは、「技術を教える前に、人としての土台を育てたい」という考え方でした。
会社として利益を出すことは大切。けれど、それだけでは人は育たない。
社員が「この会社を選んでよかった」と思える環境を整え、その中で仕事だけでなく人生の軸まで見つけてほしい。そんな強い思いが、対談を通して何度も伝わってきました。

まずは自社の社員を幸せにすることが、業界を変える第一歩
――本日はよろしくお願いいたします。まず最初に、軽部社長が今、会社経営の中で一番大事にされていることからお聞かせください。
軽部氏:
よろしくお願いします。
やっぱり一番は、まず自社の社員を幸せにしたいということですね。
業界を変えたいとか、建設業に対して発言したいとか、そういう思いはもちろんあるんですけど、まずは自分の会社の中でちゃんとそれを実現しないと意味がないと思ってるんですよ。
技術を身につけないまま、何となく現場を転々としてしまう人もいるじゃないですか。そのまま何となく食べていけてしまうような。
でも、それだと生活は良くならないし、いつまで経っても技術者になりきれないと思うんですよね。
だからこそ、ちゃんと育てたい。最近は水道だけじゃなくて電気もやっているので、水道の技術者も電気の技術者も、しっかり育てていきたいというのは、ここ6年くらいずっと思っています。
――理想を語る方は多いと思うのですが、それを本当に自社で形にしようとしているのがすごいと思います。
軽部氏:
いや、まだまだですよ。本当にうちもこれからの会社なので。
最近ようやく、マニュアルを作ったり、教える時間を確保したり、そういう教育の仕組みが少しずつできてきたかなという感じです。
順風満帆ではないですし、むしろこれからだと思っています。
環境を整えないと、社員に夢を見せることはできない



――教育とあわせて、職場環境づくりにもかなり力を入れていらっしゃる印象があります。そのあたりの考え方も教えてください。
軽部氏:
そうですね。やっぱり環境はすごく大事だと思っています。
正直、うちも借り入れはありますし、返済も重いです。そこは全然ラクじゃないです。
でも、そういうことをしてでも環境を整えていかないと、夢を見させられないなと思うんですよね。
自分が社長になって、こういう環境を整えて、育てることもしっかりやる。
そうしたら、そこで育った人が、もし将来社長になったときに、また同じことをやってあげたいと思うはずなんですよ。
そうやって、育てる側がつながっていくような流れをつくりたいんです。
だから、儲けることももちろん大事ですけど、それだけじゃない。両立できるんだということを、まず自分が見せないといけないと思っています。
――誰でも怖さはあると思うのですが、その覚悟で投資しているのは本当にすごいです。
軽部氏:
いや、怖いですよ。もちろん怖いです。
でも、そこでやらなかったら何も変わらないですからね。結局、やるしかないという感じです。

資格や表面的なスキルより、“その人の中心”を見ている
――採用や教育の話を伺っていて、軽部社長は資格や肩書きだけでは人を見ていない印象があります。その点はいかがでしょうか。
軽部氏:
まさにそうですね。
資格が大事じゃないとは言わないです。もちろん大事ですし、仕事をする上で必要なものもあります。
でも、それより大事なことがあるよね、という感覚なんです。
僕はこれできます、あれできます、資格いっぱい持ってます、という人もいるんですけど、「人生の目標は何ですか」「何がしたいんですか」「何を成し遂げたいんですか」と聞いたときに、ポカンとしてしまう人がいるんですよ。
表面上のことはいっぱいある。でも中心がない。
そこがない人って、やっぱり成果を残さないんですよね。逆に、そこがある人は、最初に全部そろってなくても伸びていくんですよ。
――すごくわかります。表面的には整っていても、芯がないと響かないというか、伸び方が違いますよね。
軽部氏:
本当にそう思います。
だから僕は、自分が何をやりたいのかを持っている人を増やしたいんです。そこがある人の方が、結果的に強いんですよね。
「この会社を選んで正解だった」と思える場所にしたい




「10年後の目標」を全社員が掲げている。「日本一有名な建設会社になる」という目標は、代表の軽部氏によるものだ。
――では、会社としては、社員の皆さんにどんな存在でありたいと考えていますか。
軽部氏:
うちは、単に仕事ができればいいという会社ではないんですよね。
前提として、人生を楽しんでほしいというのがあります。
この会社を選んで正解だったと思ってほしいんです。
それは、ずっとここにいてほしいという意味だけではなくて、たとえ最終的にうちを離れることがあったとしても、ここで何か人生の軸みたいなものを見つけてくれたら、それでいいと思ってるんですよ。
仕事ができる、できないは正直そこまで重要じゃないです。
本人が頑張ってくれたりすれば、そっちの方が大事かなって思います。
――会社に残ることだけが正解ではなくて、その人の人生にとって意味のある場所でありたい、ということですね。
軽部氏:
そうです。
その人が正解を見つけられる場所にしたいんですよね。うちじゃなかったとしてもいいから、何か軸を見つけてほしい。それはすごく思っています。
発信を続けた先に、共感して入社する人が現れた
――XやYouTubeなど、発信にも力を入れていらっしゃいますが、その変化は感じていますか。
軽部氏:
感じますね。
最初は正直、どうせやっても無理だろうと思っていたんですよ。Xもやってなかったですし、YouTubeも2年半くらい前に背中を押されて始めたのがきっかけでした。
でも、やっぱり続けていると、徐々にそういうつながりはできてくるなっていうのはめちゃくちゃありますね。
――実際に採用にもつながっているんですよね。
軽部氏:
そうなんです。
直近でも、東京からうちの会社を見に来てもらって、入社を決めてくれた人がいました。本当に1週間前くらいの話です。
XのDMから始まって、YouTubeも見てくれて、LINE登録もしてくれて、「いつも見させてもらってます」というところから、ご飯を食べて、面談して、適性検査を受けて。
しかも、まだ条件も何も伝えてない段階で、もう前の会社に辞表を出してきたんですと言われて。
「そんな覚悟で来てくれたのか」と驚きましたね。
――条件だけではなく、考え方に共感して人が来ているのがすごいですね。
軽部氏:
そうですね。
本音で発信してるからかもしれないです。取り繕ったことを言っていないので、そのまま伝わってるのかなと思います。
建設業の発信は、救われる人を増やすことにもつながる




新社屋の近隣にある旧社屋(現在は資材置き場)。二代目として家業を継いだ軽部氏にとって、ここが原点の場所だ。
――発信という意味では、建設業の中で本音を外に出していくこと自体に、すごく意味があるように感じます。
軽部氏:
そうですね。
やっぱり、救われる人もいるんじゃないかなと思います。
僕たちは水道工事をやってきたんですけど、建設業の中でもかなり厳しい立場だったんですよね。
現場でも昼間は入らせてもらえないとか、他の業種が終わってから作業するとか、そういう状況でずっとやってきたので、特に水道って、かなり虐げられてきた業種なんですよ。
――かなり厳しい環境だったんですね。
軽部氏:
そうですね。
昔は本当に、ビール券を持っていかないと現場に入らせてもらえなかった、なんていうこともある時代がありました。
15〜16年前でも、まだそれに近い状況だったんですよ。
今はだいぶ変わりましたけど、若い人たちにはまだ“建設業は怖い”“厳しい”というイメージが強いと思います。
――たしかに、仕事内容だけじゃなくて、親方や現場の雰囲気がわからないことに不安を感じる人も多いですよね。
軽部氏:
そうなんですよ。
僕らがちゃんとしようと思っていても、職人が昔ながらの気質のやり方をしてしまうとか、そういうこともある。そこは大きいですよね。
会社で伝えたいのは、技術より先に「どう生きるか」
――ここまで伺っていると、軽部社長が社員の方に伝えたいのは、技術そのものよりもっと本質的なことなんだろうなと感じます。
軽部氏:
そうですね。
僕が会社として一番伝えたいのは、「何のためにあなたは生きてるのか」というところなんですよね。
技術を教えたいというよりは、そこを見つけなさい、ということを伝えたい。
仕事ができるようになることももちろん大事なんですけど、それだけじゃないと思っています。
何となく惰性で働いている人って、若い人だけじゃなくて、おじさんでもいっぱいいるじゃないですか。
でも、せっかくうちに入ってもらったなら、何かひとつ人生の軸みたいなものを見つけてほしいんですよね。
――そこまで踏み込んで向き合う会社って、実は多くないですよね。
軽部氏:
そうかもしれないですね。
でも、そこを言ってあげないまま、おじさんになって、そのまま一生を終えるって、めちゃくちゃもったいないと思うんですよ。変わるチャンスがなかったということですから。
だったら、変わるチャンスは作ってあげた方が絶対いいと思うんです。
技術教育の前に、人間教育が必要だと思っている
――まさに“人づくり”ですね。その考え方は、教育のあり方にもつながっていますか。
軽部氏:
完全につながっています。
本当は教育も、技術的な基本がどうこうというより、土台となる心の部分を教えたいんですよ。
そこがないと、いくら上辺の技術だけあっても、それを金儲けのためだけに使ってしまったりとか、そういう人が出てきちゃうと意味がないと思うんです。
建設業がいい方向にいかないと思うので。
――たしかに、技術だけが先に立っても、本質的には変わらないですよね。
軽部氏:
そうなんです。
だから、本当は学校を作りたいなって思ってるんですよ。
今、廃校を市と協議しながら借りる方向で動いていて、もし実現できたら、そこで建設と人間教育を一緒にやっていきたいと思っています。
まだ確定ではないんですけど、できれば今年中に何とか開校まで持っていきたいなと思っています。
――それは本当に受けてみたいです。技術だけではなく、人としての軸を学べる場になりそうですね。
軽部氏:
そうなったらいいですよね。
僕たち自身もコーチングを受けているんですけど、結局、人としての土台をどう作るかってすごく大事だと思うんですよ。今の日本人って、みんな忘れちゃってる部分もあるのかなって感じますし。
昔の寺子屋のように、「何のために働くのか」を伝える場が必要
――その“忘れてしまっているもの”とは、どういうものだと思われますか。
軽部氏:
やっぱり、「何のために仕事をするのか」「何のために生きるのか」を伝える大人が少なくなってるんじゃないかなと思うんですよね。
今って、人間関係も希薄になってるし、本音を伝えようとしても、言い方によってはすぐ問題になる時代じゃないですか。
でも、本当はその人のためを思って言ってあげることって、すごく大事だと思うんです。
――そのあたりは、昔の寺子屋的な発想にも通じますね。
軽部氏:
まさにそうです。
寺子屋って、技術だけじゃなくて、人として大事なことを教えていた場だったと思うんですよ。
僕は野球をやってきたんですけど、監督からも「お前らどうせプロ野球選手にはなれないんだから、まず人間的に一流になれ」って叩き込まれてきました。
そういうことって、今の時代こそ必要なんじゃないかなと思っています。
まずは自分の会社で証明し、その先で業界の未来につなげていく
――最後に、これから先に見据えていることを教えてください。
軽部氏:
やっぱり、まずは自分の会社からですね。
業界を変えたいとか、建設業をもっと良くしたいとか、そういう思いはありますけど、その前に自分の会社でそれを証明しないといけないと思っています。
社員が育つこと。
ここで働くことに希望を持てること。
そして、ここで育った人が、また次の誰かを育てる側に回っていくこと。
そういう循環ができたときに、初めて少しずつ業界も変わっていくんじゃないかなと思っています。
だからこそ、まずは目の前の会社、目の前の人からですね。
――本日はありがとうございました。
軽部氏:
ありがとうございました。

技術だけでなく人としての在り方を大切にする軽部氏の考えが、会社としてこのような細やかな気配りにも表れているように感じられた。
まとめ
今回の対談を通じて強く感じたのは、軽部氏の言葉が響くのは、理想論を語っているからではないということでした。
借入を抱えながらも環境に投資し、社員と向き合い、人生の話をし、本気で人を育てようとしている。そうした実践があるからこそ、言葉に重みがあります。
技術より先に、人としての土台をつくる。
社員に「この会社を選んで正解だった」と思ってもらえる場所をつくる。
そして、その実践を通して建設業の未来につなげていく。
三栄工業株式会社・軽部氏の取り組みは、これからの建設業にとって大きなヒントになるはずです。
企業情報
三栄工業株式会社
代表取締役:軽部 治
URL:https://saneikougyou.com/

